ガタック様養子縁組

先日スペインから来ていたご一行様が、また飛行機に乗って戻られました。

その際に、幾つか依頼されたことがありましてね。
そのうちのひとつが、クワガタ様養子縁組のことでした。

クワガタ様ですよクワガタ様。
STAG BEETLEのことですよ。

日本に着いた翌日、彼らは娘(6歳)の為に、子供用バスツアーに行ったそうな。
鱒のつかみ取りとか色々なイベントがあって、最後にカブト様かクワガタ様をプレゼント、という企画だったそうです。
しかし、当然のことながら国際線の飛行機にクワガタ様を乗せるなどまかりならぬこと。
何処かに放すべえか、という話になっていたらしいのですが、如何せんここは東京砂漠ど真ん中。
広い緑地に放したとしても、彼らのエサになるような木があるかは別の話です。

娘(6歳)は迷いに迷った末、わたしに預けることを選択しました。
恐らくわたしに預けておけば『また来年、日本に来た時に引き取れるから』ということでしょう。
だがしかーし。
残念ながら、その頃には南〜無〜な感じだと思われますよ。
2ミリほどある仏心を全開に引き出して、ちーん♪　ということは言わないでおきました。
種類によっては越冬する子もいるらしいので、その辺に賭けてみる。

現実問題として、うちに持って帰った後でどうしようと考えまして。
甥にあげてもいいんですが、さいたま遠いし。暑いし。行くのめんどくさいし。
という三段論法で消去。
仮面ライダーマガジンをロハでは上げなかったことに引き続き、とことん酷い伯母です。

自宅に引き取って、テーブルの上に籠ごと置いた所、弟から苦情が来ました。
「僕が虫嫌いなの知ってるでしょー！」
……そうだったっけ。虫って、甲虫類もダメだっけか？
確かにカマキリとか嫌いだったのは知ってるけど…。

カマキリ様って手の所がくきっと折れ曲がってるじゃないですか。
それこそ鎌のように。
小学生の時、弟の短パンの後ろポケットに、カマキリ様の両手をそっと掛けておきました。
で、弟に「なー、ケツんとこ見てみ」と言ったら、すっげえ叫び声上げて外まで脱走。
しかしケツポケに掛けてあるので、逃げた所でカマキリ様が何処までも一緒で一心同体。
……というようなことをした記憶はうっすらとありますなあ。
涙が出て腹痛を起こす程に爆笑しました。

とにかく嫌だとしつこいので、「可愛いのに…」とブツブツ言いながら自分の部屋へ連れて引っ込みました。
近所に子持ちのお友達がいるので、一応「クワガタ様いる？」とメール送信。
返事は翌日だろうと踏んで、クワガタ様と一晩を共に過ごすことにしました。
わたしはクワガタ様と同じく超夜行性なので、部屋には電気がずっと点いてることになります。
それこそ朝、日が昇って明るくなるまで電気が点いているので、そーなるとクワガタ様も居心地悪かろうという配慮の元、黒い布を掛けてあげたりしてやっさしーい。
他人には超冷たい割に、クワガタ様には無駄に優しい自分万歳。

夜が明けました。
友達から「息子のカブトムシ逃げちゃったから、ホントにくれるなら是非」というメールが来ました。
しかしたった一晩置いただけだと言うのに、どうしたことかクワガタ様に情が移ってしまい。
「ガタック様、養子縁組が決まりました」
少し悲しみを堪えながら告げるわたしには、腹の底から戦慄を覚えます。

ガタック様っつーのは彼の名前です。実は夜のうちに命名していたのです。
一体出典はなんぞや？　と問われれば、胸を張って答えましょう。
『仮面ライダーカブト』であると！

クワガタモチーフの2号ライダーが、仮面ライダーガタックです。
主人公の水嶋ヒロは、カブトムシモチーフのカブトに変身します。
他にも蠍、蜂、蜻蛉、飛蝗等、虫モチーフのライダーがぞろぞろ出て来ます。
全体を通して虫系を使うというのは、平成ライダーでは珍しいかも。
変身後、キャストオフ(脱皮)します。カッコイイですよ。

そういう訳で、もらい手が見つからなかったら、ガタック様と仲睦まじく暮らそうと思っていました。
っていうか友達にメール送って数時間後に、目が合ってしまい。
「可愛い……」
とマジで思ったという。
この時、わたしの脳内で一体何が起こっていたのかは謎です。

夕方、件の友人のお宅へ足取りも重く伺いました。
ちょっと淋しいよしくしく。でもあげるって言っちゃったし…。
っていうのはひた隠しに隠してのことでした。

「可愛がってね」
「名前はガタックです」
「キャストオフ済みだよ」

と、何度も繰り返しました(脳内で)。

ガタックよ。今日からは、お友達の家で正義を守るんだ…！

参考動画；ガタック様大活躍